模擬株式会社「TOMI SHOP」による高校生の起業体験
― 富山県立富山商業高等学校の実践事例 ―

本事例のポイント
- 富山県立富山商業高等学校では、生徒が企業活動を体験する「模擬株式会社TOMI SHOP」を20年以上継続している
- 授業と連動したカリキュラム設計により、ビジネス教育とキャリア教育を実践的に結びつけている
- 継続の背景には「教員の意識共有」「運営のシステム化」「学習設計の明確化」がある
はじめに
富山県立富山商業高等学校では、2002年から「TOMI SHOP」という取り組みが行われています。
これは、生徒が実際のビジネスを体験しながら学ぶ「模擬株式会社」の教育プログラムです。
地域企業と連携した商品開発や店舗運営を通して、授業で学んだ知識を実社会で活用する経験を得ることを目的としています。
当初は商店街での販売実習やインターンシップからスタートしました。しかし、運営面や教育面の課題を受けて取り組みの形を見直し、現在では授業の中で実施される体系的な教育プログラムとして定着しています。
今回、TOMI SHOPの運営に関わる教員の方々にインタビューを行い、この取り組みが長年継続してきた背景と教育的な意義について伺いました。
本記事では、その内容をもとに取り組みの特徴を整理します。



TOMI SHOPとは
TOMI SHOPは、生徒が学習した知識や技能を実際のビジネスに活用しながら、「勤労観」や「職業観」を育てることを目的とした取り組みです。
生徒は「模擬株式会社」の社員として活動し、企業理念の設定や株主総会など、実際の企業活動に近い仕組みを体験します。
また、地域企業と連携して商品開発を行い、TOMI SHOP当日に実際の店舗として販売活動を行います。
このように、学校での学びと社会との接点をつくることで、生徒がビジネスを自分ごととして理解できる学習環境が整えられています。
この取り組みは2002年から20年以上続いています。
当初は中心商店街での販売実習などから始まりましたが、
- 全校生徒の移動に伴う安全面の課題
- 授業内容との接続の難しさ
といった課題がありました。
そこで現在は、学校内で企業活動を再現する形へと発展し、教育プログラムとして体系的に運営されています。
TOMI SHOPが継続してきた3つの要因
インタビューを通して見えてきたのは、TOMI SHOPが20年以上継続してきた背景には次の3つの要因があるということでした。
- 教員の意識共有
- 運営のシステム化
- 学習設計の明確化
1.教員の意識を共有する
まず重要なのは、教員間で教育目的を共有することです。
インタビューでは次のような点を教員同士で共通理解として持つことが重要だと語られていました。
- なぜこの取り組みを行うのか
- 生徒にどのような力を身につけてほしいのか
- 進学や就職とどのようにつながるのか
これらが共有されていない場合、取り組みは単なるイベントになってしまいます。
教員の一人は次のように話します。
「イベントとしてやるのではなく、授業として成立させることを大切にしています。
生徒にどんな力をつけたいのかを教員同士で共有することが、継続の前提になります。」
教育活動としての目的を共有することが、持続可能な取り組みの土台となっています。
2.運営をシステム化する
2つ目のポイントは、運営体制の仕組みづくりです。
以前は部活動(プランニング部)が中心となって運営していましたが、特定の生徒や教員に負担が集中するという課題がありました。
現在は必修科目である「課題研究」の中に本部機能を組み込み、授業の中で運営できる体制を整えています。
具体的には次のような役割分担を行っています。
生徒の役割
■社長・副社長
■各部門長(営業部・総務部・広報企画宣伝部)
■店舗運営(クラス単位)
教職員の役割
■本部運営・店舗運営の指導
また、運営面でも次のような改善が進められています。
■書類の整理と削減
■キャッシュレス決済の導入
■現金管理方法の改善
教員からは次のような声もありました。
「仕組みを整えることで、特定の人に負担が集中しないようにしています。
学校の中で続けていくためには、運営の仕組みがとても重要です。」
3.学びの流れを授業の中で設計する
3つ目の特徴は、TOMI SHOPが授業の流れの中に位置づけられている点です。
富山商業高校では、次のような学習の流れが設計されています。
1年生:ビジネス基礎
2年生:マーケティング
3年生:総合実践・課題研究
授業で学んだ内容を、TOMI SHOPで実際に活用する構造です。
例えば、
- 損益分岐点の考え方
- 利益率の設定
- ドラッカーの「5つの質問」による企業理解
- 外部講師による接客指導
- 社会人基礎力による振り返り
など、実践と学習を往復する教育設計が行われています。
「共感」から問いを生み出す学び
インタビューの中で特に印象的だったのは、「共感」を学習の出発点としている点でした。
ここでいう共感とは、単に相手に賛成することではありません。
- 顧客は何を求めているのか
- 企業はどのような価値観で事業を行っているのか
- なぜそのような発言をしているのか
といった視点を理解しようとする姿勢です。
教員は次のように話します。
「問いを立てることも共感から始まります。
まず相手を理解しようとすることが大切です。」
授業では、外部講師の話を聞いたあとにすぐ質問をさせるのではなく、記事を読み、重要な部分にマーカーを引きながら内容を整理する時間を設けています。
このプロセスを通して、生徒は
「なぜそう考えるのだろう」
「別の見方はないだろうか」
といった問いを自分自身で持つようになります。
まとめ
今回インタビューに答えてくださったのは、学校独自の担当部署である企画部の教員のみなさんでした。
お話を伺う中で、こうした取り組みを継続していくためには、まず運営体制を整えることが重要であると感じました。
現在の課題として挙げられていたのは、接客の指導です。学校での店舗運営では、どうしても学園祭の出店のような感覚になりやすく、実際の接客をどのように学ばせるかが今後の課題だといいます。
また、少子化によってクラス数や教員数が減少し、カリキュラムも変化しています。そうした状況の中で、持続可能な教育モデルを模索しながら取り組みが続けられています。
模擬株式会社という学びの形は、キャリア教育の観点からも大きな可能性を持っています。
今回の事例は、地域と連携した実践的な学びのモデルとして、多くの学校にとって参考になる取り組みといえるでしょう。

他校が参考にできるポイント
本事例からは、次の3つの視点が重要であることが見えてきました。
- 教員間で教育目的を共有する
教育活動としての目的を明確にすることで、取り組みの継続性が高まります。 - 授業の中で運営できる仕組みをつくる
授業に組み込むことで、特定の生徒や教員に負担が集中することを防ぐことができます。 - 共感から問いを生む学習設計を行う
顧客や企業の視点を理解するプロセスを設計することで、生徒の主体的な学びが生まれます。
