株式会社HIMIco-bridge設立を通して追求する新しい学びの形
富山県立氷見高等学校の実践事例 ―

富山県立氷見高等学校では、生徒主体で株式会社HIMIco-bridgeを設立。
地域や企業と連携し、ICTを活用したデジタル無人店舗の運営を通して地域課題の解決と新しい学びの形を追求しています。

氷見高校発「株式会社HIMIco-bridge」設立の背景

氷見高校ではこれまでも、地域との協働による学びを大切にしながら教育活動を進めてきました。しかし、人口減少や地域社会の変化が進む中で、学校の学びをより実社会に近い形へと発展させる必要があると考えています。

その取り組みの一つとして生まれたのが、氷見高校発の株式会社HIMIco-bridgeです。学校と地域の事業者が協働して株式会社を設立し、高校生が実際の社会の中で事業に関わることで、これまでの地域連携の学びを「本物の社会との関わり」にまで昇華させることを目指しています。

模擬的な活動ではなく、実際の会社として事業を行うことで、高校生は社会の中で価値を生み出す主体として関わります。地域の方々や事業者との関わりの中で挑戦と学びを繰り返しながら、地域と学校の双方に新しい価値を生み出していくことを目的としています。

高校生が挑戦し、地域が応援する仕組み

このプロジェクトが目指しているのは、「挑戦と応援が循環するまち」をつくることです。

50年後の氷見を見据えたとき、この地域に住み続けるためには、必要なものや新しい価値を自分たちで生み出していく力が欠かせません。そのためには、若い世代が主体的に挑戦できる環境と、その挑戦を地域全体で支える文化が必要です。

挑戦は簡単に成功するものではありません。しかし、周囲の応援や支えがあれば、挑戦の成功確率を高めることができます。高校生の挑戦を地域が応援し、その経験がまた次の挑戦を生む。そうした「挑戦と応援の循環」が地域に広がることを、この取り組みは目指しています。

社会につながる学びとしての株式会社

株式会社HIMIco-bridgeでは、高校生は単なる体験者ではなく、会社の一員として本格的に関わります。

生徒は株主として会社の意思決定に参加し、社員として役割や責任を担い、また授業で生み出した作物や製品を社会に届ける生産者としても関わります。実際の社会の中で、自分たちの判断によって価値を提供し、その結果として「選ばれるかどうか」という現実にも向き合います。

成功や失敗の経験を通じて、なぜその結果になったのかを考え、次にどう行動するかを自分で決める。この一連のプロセスこそが、社会とつながる本質的な学びであると考えています。

高校生の挑戦が地域の未来を動かす

このプロジェクトにおいて、高校生の学びは目的そのものではありません。高校生の挑戦と行動が、地域に新しい価値や変化を生み出す原動力になることを目指しています。

若い感性や行動力を活かしながら地域の課題に向き合い、小さな挑戦を積み重ねていくこと。その過程の中で、高校生自身が社会を生き抜く力を身につけていくこと。そしてその経験が、地域に新しい可能性を生み出していくこと。

株式会社HIMIco-bridgeは、学校と地域をつなぐ新しい仕組みとして、高校生の挑戦を起点に地域の未来を動かしていくことを目指しています。

株式会社設立と無人店舗開設記念イベント
「氷見高生と地域による『ひ未来トーク』」レポート

2026年2月14日(土)、新たな挑戦の幕開けとなる設立記念イベント「氷見高生と地域による『ひ未来トーク』」が開催されました。
株式会社の概要説明と無人店舗のお披露目、そして「学びと挑戦が描く氷見の未来」をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。

イベント概要

日時
2026年2月14日(土)13時~15時
会場
Galleryこしだスーパー(富山県氷見市伊勢大町1丁目1-5)
司会
多地 翔星さん(氷見高校2年農業科学科/インターン社員)
プログラム
  • 開会のあいさつ
  • 来賓紹介・来賓あいさつ
  • 株式会社HIMIco-bridge設立について概要説明
  • 無人店舗開設について発表
  • パネルディスカッション<ひ未来トーク>
    ~学びと挑戦が描く氷見の未来とは~

    コーディネーター 島田 勝彰さん(合同会社ハピオブ代表社員)

    第1部「なぜ高校に会社が必要なのか」
    松木 佳太さん(株式会社HIMIco-bridge代表取締役)/徳前 紀和さん(氷見高校校長)

    第2部「高校における起業家教育とは」
    北谷 旭さん(氷見高校3年ビジネス科)/山田 航大さん(株式会社ModelingX 代表取締役 CEO)/荒川健生さん(Himi-Bizセンター長)

  • 記念撮影
  • 閉会のあいさつ・参加者交流

まずイベントでは来賓の挨拶がありました。
徳前 紀和さん(氷見高校校長)は、従来の高校教育が点数の獲得による社会の枠組みの中での役割遂行を重視してきたのに対し、人口減少社会では高校生自身が新たな価値を創り出す力が求められていると述べました。地域や企業と連携しながら氷見の魅力を学び、市外へ発信する活動を通して、将来ふるさとに戻る流れを生み出すとともに、実社会で役立つ力を身につけてほしいと期待を示しました。
菊地 正寛さん(氷見市長)は株式会社HIMIco-bridge設立を祝し、氷見高校の生徒たちが地域活動に積極的に取り組んでいることを高く評価しました。これまでのさまざまな地域連携の活動に触れながら、今後の事業展開や震災復興における活躍にも期待を寄せ、市内企業や団体、市役所が連携して支えていく考えを示しました。
清水 幸雄さん(氷見商工会議所会頭)は、高校生が株式会社を立ち上げて事業運営に挑戦する取り組みは全国的にも先進的だと評価しました。専門学科で培った知識や技術を生かした実践的な学びが、デジタル人材や地域産業の担い手育成につながるとして、教育・産業・地域が連携する新しいモデルへの期待を示しました。

株式会社設立と無人店舗プロジェクトについて

松木 佳太さん(株式会社HIMI co-bridge代表取締役)は、本プロジェクトを通じて学校・行政・企業・地域が連携する「オール氷見」の文化を育てていきたいと語りました。高校生の挑戦を授業の中だけで終わらせるのではなく、実社会での実践へとつなげ、地域との双方向の関わりの中で学びを深めていくことが重要だと説明しました。また、専門学科の枠を越えて連携することで新たな価値を生み出すとともに、デジタル技術を実社会で活用できる力を高校生のうちから身につけてほしいと期待を示しました。

さらに、模擬ではなく「本物の株式会社」として事業に取り組む理由について、継続的な活動には収益性と大人の本気の関与が不可欠であり、実際の顧客の声が事業や学びに還元される仕組みこそが本物の学びにつながると述べました。生徒が安心して挑戦できるよう大人が最終責任を担い、地域からの応援や見守りが挑戦を支える力になるとも語りました。

また、地域住民も参加できる株主総会の開催や無人ショップの運営などを通して、学校と地域がより近い関係になることを目指すと説明しました。
インターン社員であり、卒業後も学生役員として携わっていく北谷 旭さん(氷見高校3年ビジネス科)が無人店舗から中継で登場し、商品ラインナップや生徒たちが考えた店舗レイアウト、無人で入店・決済できる仕組みについて紹介しました。

パネルディスカッション第1部:なぜ高校に会社が必要なのか?
松木社長と徳前校長が語る「学びの真剣勝負」

パネルディスカッション第1部では、合同会社ハピオブ代表の島田勝彰氏をファシリテーターに迎え、氷見高校の徳前紀和校長と、株式会社HIMIco-bridgeの松木佳太代表取締役によるパネルディスカッションが行われました。「なぜ高校に会社が必要なのか」という本質的な問いに対し、松木社長が語った熱い想いを中心にレポートします。

プロジェクトのきっかけ:人口減少社会で生き残るための「コミット」

プロジェクトの原点について、松木社長は現代の学校教育が抱える課題を指摘しました。

  • 臨機応変さの必要性:「学校は定型的なフォーマットに従うのは得意ですが、臨機応変な対応は苦手です。しかし、人口減少社会で学校が生き残るためには、社会とのコミットメントこそが最も大切だと考えています」と、プロジェクト始動の決意を語りました。
  • 学科統合による大きな力:「得意なことがそれぞれ違う子たちが集まり、その専門性を横に繋いで世の中と一体化させる。そのために、DXハイスクールという枠組みを活用して学科連携を推進しています」と説明しました。

なぜ「本物の会社」でなければならないのか

松木社長は、模擬授業ではなく、リスクを伴う「株式会社」として運営することへのこだわりを強く語りました。

  • 自分で掴んだものしか残らない:「模擬だと活動が終わってしまいますが、本物は自分事として取り組めるかどうかが違います。人から教わったことより、自分で掴み取ったものや失敗から感じたことしか、本当の意味で使いこなすことはできません」と、生のインタラクティブなやり取りの重要性を説きました。
  • 持続可能な運営体制:模擬的な活動では継続性に限界があるとし、「大人がフルコミットで関わり続けるためには、経済的な持続可能性が必要。利益を追求しうる株式会社という形が、最も適している」と、組織の根拠を述べました。

高校生へのメッセージ:失敗を恐れず「怖いこと」に挑む

松木社長は、生徒たちの挑戦を支える大人側の責任と、生徒たちに伝えたい「成長の本質」について言及しました。

  • 「死なない失敗」を支える仕組み:「失敗への恐怖の正体は、笑われることやレッテルを貼られることです。でも実際は再起可能。周りの大人が金銭的・人的に応援し、見守る安心感を作ることで、失敗確率を下げる安全網を構築したい」と語りました。
  • 生き残るための挑戦:「高校生には、あえて『怖いこと』に取り組んでほしい。それが生き残る術です。小さく、死なない程度にどんどん失敗しようと伝えています」と、力強いエールを送りました。

実社会と学びの接続:野菜の価値を知ることから始まる

学びを「自分事」にするためのアプローチについて、具体的な学科の例を挙げて説明しました。

  • 価値の可視化:「例えば農業科学科の生徒が作った野菜が、社会でどんな価値を持つのか。それを知らないままでは、農業を志す動機にはなりません。実社会にコミットし、自分たちの努力が価値に変わる瞬間を体験する場が必要です」と述べ、教科学習が社会の実装に繋がる基盤であることを強調しました。

地域社会への期待:共に「挑戦と応援の循環」を作る

最後に、松木社長は地域住民の方々に対し、具体的な「参画」を求めました。

  • 双方向のフィードバック:「株主総会への参加や無人ショップの利用を通じて、食べた感想や率直な意見を届けてほしい。また、地域の困りごとを相談してもらえるような存在を目指したい」と語りました。
  • 成長への厳しい視点:司会や発表を務めた生徒への評価を「45点」としつつ、「最初は5点だったのが、フィードバックを経て短時間でここまで上がった。お客さん目線を持つための本気の指導を今後も継続する」と、生徒の成長に対する本気の姿勢を宣言しました。

松木社長は、氷見高校を地域と一体化した学校にするため、そして氷見への愛を体現し続けるために、生徒たちの挑戦を全力でバックアップしていくことを約束し、ディスカッションを締めくくりました。

パネルディスカッション第2部:高校における起業家教育とは?
生徒と支援者が語る「現場のリアル」

第2部では、氷見高校で実際に進んでいる「起業家教育」に焦点を当て、現場の最前線に立つ3名のパネラーが登壇しました。高校生、IT企業、地域ビジネスサポート、それぞれの視点から語られた「学びの変化」をレポートします。

最初は「難しそう」だった。8割の困惑から始まった挑戦

起業家教育の導入当初、現場では戸惑いも大きかったとパネラーたちは振り返ります。

  • 生徒の本音:北谷さんは「最初聞いた時は『難しそう』というのが一発目の感情だった」と素直な心境を明かしました。
  • 講師側の視点:160人の授業をサポートする山田さんは、「最初は8割以上の生徒が本当に何を言っているのか分からないという反応だった」と話し、手探りのスタートであったことを語りました。

変化のきっかけ:大人との関わりと同年代からの刺激

そのような状況から、どのように生徒たちの意識が変わっていったのでしょうか。

  • 自分の強みに変える:北谷さんは、「授業を重ね、いろんな大人の人と関わることが増えて、自分にとって良い経験になった。これから社会に出る上で自分の強みになる、身につけたい能力だと感じるようになった」と、前向きな変化を語りました。
  • 創造する楽しさ:山田さんは、「同年代の学生起業家がSNSやシステムを楽しそうに作る姿を見て、生徒たちにやる気が芽生えた。将来なりたいものや好きなことを聞きながら、自主的に創造できるよう働きかけている」と、変化の手応えを口にしました。

起業家教育の本質とは:自分の意見を「自信」に変える

議論は、このプロジェクトが育む「力」の本質に及びました。

  • 課題解決の体験:荒川さんは、「起業家教育の本質は、課題発見と解決の体験そのもの。まずはチャレンジスピリットの機運を循環させ、地域の大人たちが一丸となって支える体制が重要だ」と強調しました。
  • 経験こそが財産:北谷さんは、自身の部活動(ハンドボール部)の経験に触れ、「自分で得たものしか最後は発揮できない。自分の意見や思いを、大人を巻き込んで形にすることで、それを自信や財産にしていきたい」と力強く語りました。

現場での実践:高校生が主体となって進める店舗運営

「HIMIco-bridge」の具体的な活動として、店舗運営についても紹介されました。

  • 休日の自主的な活動:「内装チームのメンバーが、休みの日にも学校に来て準備を進めてくれた」と北谷さん。生徒たちが主体的に動くことで、本物のお店づくりが進んでいるエピソードが披露されました。
  • 大人のサポートを本物に:「自分たちの意見を、大人の人に手伝ってもらって『本物』にしていきたい」という北谷さんの言葉には、生徒と大人の双方向な関係性への期待が込められていました。

松木社長の決意:やりたいことを「全力でバックアップ」

最後に、松木社長が閉会の挨拶として、これからの支援体制について宣言しました。

  • 個人の夢を応援する:「バリスタを目指す生徒やインフルエンサーとして活動する生徒など、既にアクションを起こしている高校生が氷見にはたくさんいる。彼らを会社として全力でバックアップしていきたい」と話し、18日のプレオープンでは、バリスタ志望の生徒にコーヒーを担当してもらう計画も明かしました。
  • 地域と一体化する学校:「氷見高校が一方的にやるのではなく、地域の人たちとやり取りをして新しいものを生み出していく。氷見市を盛り上げるために、挑戦を止めない」と締めくくりました。

株式会社HIMIco-bridgeの設立は、単なる教育プロジェクトではありません。
それは、学校が社会と本気でつながる挑戦であり、高校生が自分の人生を自分事として動かすための仕組みづくりです。
挑戦する高校生と、それを本気で応援する大人たち。その循環が、氷見の未来を描いていきます。